訂正1999・5.20


住宅における雨水利用
Dr.Hans-Otto Wack


はじめに

雨水利用は非常に新しい建築技術でありながら、まだ発展途上の技術であり、最低限の仕様ができたばかりです。しかしながら雨水利用は、今や、新しい住宅装備の一部となってきています。雨水利用は、エコロジ−に密接な技術であることから、経済的重要性も高まってきており、新たな雇用機会を創出しています。雨水利用設備にかかわる人々は、設計、使用する材料とともに、非常に多くの要素を組みこむことになります。そこで、本レポートでは、住宅設計、購入、整備の方針の手助けとなる説明をします。

雨水の質と使用範囲
 雨水に関する調査は多いのですが、「屋根からの土まじりの雨水」に関する調査はあまりありません。まったく視点を変えてみると、例えば、洗濯用に関する上水道の水質基準は、ヨーロッパにおけるバス利用の水質基準から確認することができます。適切に施設を整備すると、雨水は水質基準よりも清潔です。雨水は、匂いもなく、また色もなく、また成分的にも問題がありません。この点で、雨水を洗濯に利用することを推奨されるべきです。ただ、この条件を満たすためには、確実に、最低限の雨水利用仕様を満たさなければなりません。もし、設計を過ったり、間違った機器を選択したり、機器類の運転段階でトラブルが生じたならば、すぐに匂いを発生させ、急激な品質低下を招きます。
 他の建築技術(例えば、ヒーティング)、が前もってトラブルのないように配慮し、またメンテナンスは少なくし、それゆえに低コストになるのと同じことです。
 雨水利用システムは、水道と違って、トイレの洗浄、洗濯、家事、ガーディニング、その他洗浄用水等の利用に限ぎって考えることができます。完璧な雨水利用システムをガーディングのみに用いるのには経済的ではありません。つまり、夏の間のほんの数ヶ月分の雨で、ガーディングには十分な雨水なのです

シップス補足 ドイツの洗濯機は温水で行っています。日本の洗濯機とは異なっています。このためドイツの事例を持って、洗濯にも使えるということはできません。ただ、洗濯機の中もカビなどで汚れていたり、下着も洗っているわけで雨水よりも清潔な状態とはいえないように思います。このあたりは、つめきれていません。

雨水利用技術
 他の建築技術(例えば、ヒ−ティングシステム)と同様に、雨水利用はさらなる進歩を遂げる段階にあります。雨水利用に関する最低限の雨水利用に関する仕様は、ここ数年で急速に進歩しましたが、まだ、新たな事実をつけくわえていかなければならない状態であります。
 新築段階、そして建築後に雨水利用システムを導入する場合も含めて、次の原理を考慮すべきです。
○雨水利用は、適切な屋根にのみ利用すべき。(屋根の材質、状態によって不適切なものがある。)
○テラスや、舗装されたエリア、例えばバルコニー等は汚れているので接続しないようにする。
○建築基準に満たした形で、雨水システムを設計すること(システムが故障しても、ビル排水を確実できるようにすること、各居室の制約とならないこと、喚起をしっかりすること)、水、汚れが沈殿することを防ぐこと。
○タンクへ水が流入するまえに、細かいメッシュのフィルタを通すこと。
○タンク内で第2、第3の水の浄化機構がいつも機能していること。
○タンクへの外部からの異物の進入を防ぎ、また水を流失を防ぐこと。
(住宅保険は、しばしば漏水の被害をカバーする。特にビル内)
○配管はできるだけまっすぐ、短く施工すること。
○腐食性の材質を用いないこと、耐久性のある材質を使用すること。
○光を遮断し、水温は18度以下に保つこと。
○厳密に上水と雨水利用水と区別すること(各自治体の規制に従うこと)。「飲用でない」ことをすべてのシステムの部品に明示し、またこれをメンテナンスすること。

屋根の表面
 非常に汚れている屋根には、導入するべきではありません。(とりのふん、鶏小屋、セメント工場のように大量のダストを出す施設の近く等、、) 次の数例を除いて、すべての屋根は、雨水を集めるのに有効です。
○緑化屋根(水が着色されている場合、ガーディニングのみ使用可能)
○風化したアスベストセメントの屋根(雨水に使用できないだけでなく、健康に害を及ぼすため、取り替えた方がいい。)
○アスファルトコーティングしたばかりの屋根(無色なのを確認して、洗濯等に使用すること)
○金属屋根(ステンレススチールを除く)、(ガーディングには向かない、土壌の金属イオン濃度を高くします。)

 樋、その他雨水システムのパーツの中に蓄積される汚染物質、泥等は、菌類の繁殖につながります。雨水の利用率は、屋根勾配、屋根の状況(例えば、屋根に泥が堆積)によって、幅広い値をとります。基本的には、すべての屋根は、システムに連結されるべきです。オバーフローした水は、地下浸透させるか、もしくは下水道へ排水すべきです。

フィルタリング
 雨水をタンクに流入する前に、一般的に0.2mm以下のメッシュのフィルターにかけるべきです。こうしておくとタンク内のポンプには、圧送側、吸引側、いずれにしても、細かいフィルターは不必要となります。これは、ポンプに挿入するフィルター部での、バクテリア繁殖の原因となる汚泥を低減し、またポンプの負担を軽くすることが可能となります。

フィルターに対する要求事項
○屋根から来る大小の物質を確実に分離すること
○ロスが少なく、また長持ちするフィルター
○雨がやめば、すぐに乾くフィルター
○詰まらないこと、細菌類、真菌類、藻類がないこと
○容易に手のとどくところにあり、メンテナンスに余計な費用がかからず、メンテナンス作業が容易であること。

市場の多くのフィルタは、上記の条件を満たすことができません。特に、層を通過するフィルタ(例えば砂礫を用いるもの、マットを使用するもの、繊維を使用するもの等)は汚れをフィルター部分に残してしまう。)
 大きな水の劣化をさけるためには、集中的なメンテナンス必要となりますが、WISY社のフィルターのような自洗式は、この点で非常に効果的です。

シップス補足 日本では、微生物膜がはりやすいので、0.28mmメッシュ、0.44mmメッシュを採用しています。

貯留槽
 雨水タンクは、雨水貯水すること、水質を守ること、この2つを満たさなければなりません。水質は、タンク内の水の循環にかかってきます。そして、このことは、タンクの中だけでなくタンク外部に対しても同様です。
雨水をためるための要求事項
○屋根面積から計算すること。(大きすぎることはない。屋根面積25uから40uで1トン)
○住宅の建築基準をみたすこと。(建物の排水システムを確認すること)
○水を常時、満たし、光を防ぎ、水温は18度以下に保ち、凍結を防ぐこと。
○安定した形で、ひび割れに強く、耐摩耗性・修復性があること。
○酸性雨を中和できること、水に酸素を供給できること。
○タンク内の沈殿物質を撹拌しないで、雨水の流入、上水の注入、水の吸引ができること。
○自動排除、水よりも軽い物質の排除(タンクは大きすぎず、適切なオーバフローが設計されていること)
○流入水量に対処でき、また下水道側からのガス、小動物の進入をふせぐことができる十分なオーバフロー設備があること。
○アクセスビリティが高く、清掃が簡単、特別なコストをかけずにメンテナンスできること。
 これらの要求事項は、コンクリート貯水槽ですべて満たすことができます。他のタイプのタンクは、よりコストがかかり、雨水利用仕様を守ることは難しくなります。(古い浄化槽が、貯留タンクとして使用することがあります。)地中埋設型のタンクの方が、建物内へタンクを設置するよりも基本的には望ましい。また下水道からのの逆流を防ぐため、下水道への接続をせず、あふれた水を地下浸透させることもあります。

ポンプ・住宅向け水利用システム
システムごとに、異なったタイプのポンプがあります。最も多く利用されるの水中多段ポンプ(このポンプは、空状態で稼働して問題をおこすことが少ない)、あるいはマルチプルステージ、ロータリポンプであり、いずれも自動圧力レギュレータがついています。ポンプ仕様及びこのポンプと接続する配管設備仕様は、設計上要求される最終圧力によって決定されます。どのようなケースにおいても、高い品質のポンプを用いられるべきであり、安物を使用することは避けるべきです。

要求事項・ポンプの能力
○適切な配管設計(それぞれの設計に応じて、ポンプの特性曲線を参照してください)と効率的な電力消費。
○効率性(ポンプ外側と本軸との隙間が小さいこと)
○全体を通して腐食しない高品質のパーツを使用しているもの
○耐久性(部品類の対摩耗性、品質のよいベアリング、修理の容易性)
○異なった圧力での稼働する可能性とシステム制御。流れが分岐する部分で、圧力を弁で調整する必要のないこと。
○早い動作、低騒音(マルチプルステージポンプがもっとも望ましい)パイプへの柔軟な接続
○ポンプの正しい使用。空気中での稼働はさける。
○吸引型のポンプは吸引する高さを低くし、空気が入らないこと、サクションパイプを使用すること。
○水中ポンプのためのフローティングサクションシステム

上水の追加供給
もし、長期間、雨水が不足し乾燥状態、もしくは凍結期間が続いた場合、上水を追加供給しなければなりません。これは、確実に飲用水と中水とを分離できる供給機能をもった給水システムとして、建築基準に基づいておこないます。この場合、少なくとも20mmは雨水利用タンクへの注入管と上水注と吐水口空間を設けることが必要です。
この注入関連のパイプ設備は、圧力がかからない段階で、バックプレッシャがあってはいけないことを気を付けてください。この上水供給システムは、基本的にバックプレッシャよりも上に設置すべきであるが、決してタンクの中に設置してはいけません。そして、システムは、検知機と電磁弁により自動的にコントロールされ、供給量は、日使用量の1/2までとすることおすすめします。


自動制御システム
自動制御システムの導入は、安全と操作性の考慮して導入することを奨めます。自動制御システムは、ポンプをいつも乾燥状態もしくは空気が入ることを防ぎ、雨水が不足した時に、上水で補わなければなりません。光で表示されるゲージをつけることを推奨します。

要求事項
○恒久的かつ低メンテナンス、スイッチが耐久性のあるもの。
○低電圧、短い配線ルート
○貯留タンクを最大限活用できるもの。乾燥状態での稼働を防ぐため、システムが稼働している時に沈下物層よりも高い位置で稼働
○最小限の上水供給(日使用量の1/2)
○環境にやさしい金属であり、腐食性のないもの
安全装置
建物や導入するシステムのタイプによって次の安全装置を設置しなければなりません。
○飲料水と、非飲料水との明確な区別をすること。
○適切なラベルを主な飲用水にはり、雨水利用をしていることを分かるようにすること。
○ダクトにおける凍結対策のための断熱をすること。
○圧送システムの最も低い箇所での排水バルブの設置。
○不正な利用に対する安全タップの設置。
○誤動作等に対する警報装置

メインテナンス
 導入した設備は、恒久的な運転を確保するために、適切な期間をおいてメンテナンスすべきです。健全なシステムにおいては、機器関係、ポンプや電磁弁のようなパーツは1年に2回から4回点検するべきです。また、それ以外のパーツ、例えばフィルタ、タンクは年に2回程度の点検でかまわないでしょう。 実際には、(砂礫層をフィルターにしたもの、細かい繊維、角膜、安いポンプ、腐食性の材質を使用したもの)、構成する部品によって、さらにメンテナンスがかかります。そして、設計及び導入時のミス(過大なタンク設計、雨戸樋の逆流、電磁弁・汚いフィルタ−)によってメンテナンスの回数及びそのコストは高くなっていきます。
 もし、メンテナンスを要するパーツで構成された場合、ほとんどメンテナンスにかかりきりになり、非常なコストがかかることでしょう。これは、賢い建築技術とは言えません。

設計施工
 雨水利用システムは、基本的にはどんな建築物にも導入することはできます。貯留する適切な場所がない、もしくは、利用に適さない屋根であるとか、雨水の逆流に対して保護することのできない場所にあるという例外はあります。
 いかなる個々のケースの設計においても、雨水利用を含めることは必要です。すなわち、一戸建て住宅の計画でさえ、多くの費用と手間を低減することができます。
 計画と設計の基礎データは、最小限の雨水利用仕様と集められる雨水の量によって決められます。これらは次の公式で計算することができます。

屋根面積*0.75*年間降水量=年間収集水量

この計算により算出された数字の85%から90%が利用可能であり。残りの部分はフィルターを洗浄等の別利用されることになります。しかしながら、もし、フィルタのメンテナンスが悪い場合は、20%程度まで落ち込んでしまいます。

貯水量は、屋根面積により、次の式で計算することができます。
年間降水量*0.05

ラフな公式では、1トンのタンクが25uから40uの屋根面積となります。貯留量を大きく設計する場合に注意しなければならないのは、オバ−フローが非常に少なくなることです。浮遊物質を流すことができず、水は腐敗し、タンク内の水を廃棄しなければならなくなります。タンクをぎりぎりに設計したとしても、驚くべき経済性を達成できることを実験は示しています。

シップス補足 ドイツは日本の降雨量の半分なので、この場合25uから40uとなります。


 雨水利用は、いまだ新しい建築技術であることから、様々な業社が経験のないまま参入してきますが、専門の技術をもった専門業者が必要とされます。業社に注文を出す前に適切な技術があるかどうか(例えば、トレーニングコースがあるかどうか)、あるいは、実績があるかどうか等を確認することが大切です。
コスト、経済性、その他
小さな雨水利用システム(2戸から4戸)の市場価格は平均して、外部タンク導入6000ドル、内部導入タンク4500ドルとなります。この価格には、すべてのシステムが含まれています。あとから雨水利用システムを導入する場合、新築住宅よりも安くなることが普通です。顧客自ら施工する場合、これらは建築物によっても異なりますが、平均コストはさらにさがるからです。
 どのようなケースにおいても、しっかりとした見積もりを得ることが大切です。市場調査において、タンク導入コストは100%以上の開きがあり、またフルセット導入した場合130%もの開きがあります。恒久的な経済性、エコロジに適しているかどうかは、利用期間によります。良好な雨水利用システムは、良好な品質と低いオペレーティングコスト(ポンプの電気的なコスト)でトラブルなしで稼働することを約束します。このような場合、水道価格で計算すると5年から12年で回収することができます。
 様々な形で、ドイツの多くの自治体で補助がおこなわれており、申請により300ドルから4000ドルを補助金があります。そして益々、雨水利用のない建築物の排水コストと比較して、雨水利用をした方が得になるように、各自治体の雨水利用推進政策が実施されて行きます。
 結局、雨水利用システムは、水供給の問題と排水の問題を軽減するゆえに環境保護の重要なものとして代表されるということです。

Dr Hans-Otto Wack: